心が活きる教育とは

20世紀は、科学・技術・産業などが飛躍的進歩を遂げると同時に、貧困・犯罪・テロリズム・地域紛争・戦争・環境破壊のような人類の宿痾というべき矛盾を克服することができず、21世紀においても、近代社会の限界から生ずる個人、社会、地球全体のさまざまなレヴェルにおける解決困難な課題が持ち越されている。学校教育という場面に限定しても、いじめ、校内暴力、不登校という学校関係者や保護者を悩ませる現象は、人間の心のあり方について大きな問題を投げかけてきた。人間が作り出すさまざまな制度や組織は、本来そこに生きる人間の「心が活きる」ものでなければならないが、現実には制度や組織が人間を苦しめたり、心を萎えさせたりしている。
心の問題は、さまざまなフィールドで取り上げられるべきでものであるが、中でも教育というフィールドは最も重要なものの代表格である。ただし、高度に情報化された現代社会においては、教育が学校教育という狭いフィールドに限定されるのではなく、時間的空間的に拡張された、人間の生きる包括的な文脈での生涯学習あるいは生涯発達の視点が不可欠である。
人間は、教育というものを通じて、知識と技能を獲得することによって自身が何事かをなすことができるという「有能感」を得、自然や社会とつながることによってこの世界に生きているという「生命感」を得る。さらに、この2つの感覚を一定の目標に向けて十分に発揮することによって何かをなしえたという「達成感」が得られる。そこに、同時に「幸福感」というものを感ずることもできよう。反対に、このリンクの一部あるいは全部がうまく機能しないとき、様々な問題が起こってくる(図参照)。
心と教育の諸問題に注目が集まる今日の社会において、このような枠組みから「心が活きる教育」を研究する国際的教育・研究拠点を構想し、その諸問題に取り組む人材を育成する拠点の設置が強く求められているのである。また、本拠点で育成される人材像として、大学等の研究機関で活躍できる者は言うまでもなく、少子高齢化社会において社会の活性化をはかるために期待されている新たな教育産業の創生に貢献できるような、ユニークな人材をも視野に入れている。